カリキュラム概要
まずはじめに、音楽の三大要素である「リズム」「メロディー」「ハーモニー」について、音楽を形作るために必要な最低限の知識をDAWを使いながら楽しく学んでいきます。DAWのさまざまな機能を使って、自然に理解を深められる内容になっています。
次に、独自のカリキュラムを通して「音の配置」「サウンドデザイン」「ミックス・マスタリング」という「コンピュータ音楽制作の三大要素」の全体像を把握していきます。こちらは、作りたい音楽によって重点を置くべき場所が違ってくるため、好きな音楽の分析・コピーなども並行して行なっていきます。
また、知りすぎてしまうとかえって制作ができないこともあるので、即制作に活かせるようなことを中心に、だんだん広げていくイメージです。
基礎編を経て、さらに深く自分の音を追求したい方には、マンツーマンレッスンの強みを活かした完全オーダーメイドの探求カリキュラムに移行することもできます。
カリキュラムのどこからスタートし、どこで卒業するかは人それぞれですので、個別に話して決めていけたらと思います!
- 音楽の三大要素
- コンピュータ音楽制作の三大要素
- コンピュータ音楽探求編
- 3つの柱で星座を描く
- Emergent Sound Theory
- 自分自身の探求
音楽の三大要素
音楽の基本構造を理解するために、「リズム」「メロディー」「ハーモニー」という三大要素を学びます。DTMでは、これらの要素を知っておくことで、スムーズに制作を進めることができます。
💡 この三大要素は、無料のDAWソフト BandLab を使ってひと通りカバーできます。まずはソフト購入の負担なく始められますので、「どんなソフトを買えばいい?」という不安がある方も安心してスタートできます。
🎸 楽器の演奏経験がなくても大丈夫です。 音楽の三大要素は、DAWを実際に操作しながら制作する体験を通して身についていきます。また、演奏者が楽器で表現するような細やかなニュアンス——強弱・音の伸び・揺れ——も、コンピュータ音楽ではベロシティ・ADSR・ピッチベンドなどのパラメータとして制御できることが、学習を通じてだんだんわかってきます。逆に「このニュアンスは人間の演奏だからこそ出せる」という部分も見えてくるため、演奏者に依頼する際の聴きどころを理解する入り口にもなります。
リズム
リズムは音楽の土台となる要素です。DTMソフトではドラムパターンやループ素材を使って、簡単にリズムを作ることができます。このレッスンでは、リズムの基本的な役割を理解しながら、自分でリズムパターンを作成する方法を学びます。
- 第1講 全体像とシーケンサー — DAWの全体構造とタイムラインの基本的な使い方
- 第2講 リズムについて — 拍・小節・BPMの基礎概念をDAWで体感しながら学ぶ
- 音価と付点音符 — 音の長さの種類と、グルーブ感を生む付点音符の使い方(Jersey Clubなど具体的なジャンルを例に)
メロディー
メロディーは音楽の中で最も記憶に残る部分です。MIDI編集を使って、メロディーを作る技術を学びます。音程やスケール(音階)の基本も取り入れながら、楽しくメロディー制作を体験します。
- 第3講 音律・スケール・メロディー — 音律・スケール・メロディーの関係を体系的に整理する
- メロディーの作り方 — MIDI編集を使ったメロディー制作の実践。難しい理論抜きでとりあえず不協和音にならない考え方を伝授!
ハーモニー(コード)
ハーモニーは音楽に深みと広がりを与える要素です。コード進行を中心に、DTMソフトで和音を簡単に作成する方法を解説します。コードの世界は入り込みすぎるとかえってモチベーションを失ってしまう危険があるため、ここでは実際の制作に活かせる最低限の内容のみを効率的に習得します。
- 第4講 ハーモニー — コード(和音)の基礎をDAWで鳴らしながら理解する
- (興味あれば)ToneGymで音感トレーニング — 無料の音感トレーニングサービスを使って耳を鍛える
- (興味あれば)音の中に潜む「自然の和音」 — 倍音の仕組みから和音が「なぜ気持ちいいか」を理解する
- (興味あれば)ダイアトニックコードまでの道①〜⑤ — スケール→インターバル→コード度数→ダイアトニックコードへの体系的な道筋
コンピュータ音楽制作の三大要素
リリース
コンピュータ音楽制作の特有のプロセスである「音の配置」「サウンドデザイン」「ミックス・マスタリング」について最低限必要な知識を制作の実践を通して学びます。
※なお、この分類は完全に自己流なので一般的にコンピュータ音楽の三大要素などと呼ばれるものはありません(笑)
💡 BandLabからの移行について: エフェクトを色々触ってみる体験や音量バランスの調整といった入り口の部分は、引き続きBandLabのまま体験できます。ただし、ADSRを使った詳細な音作りや本格的なサウンドデザインになるとBandLabでは難しくなるため、三大要素の途中から本格的なDAWへ移行します。ちょうどその移行タイミングまでのレッスンで生徒さんの音楽の好みを把握できているので、FL Studio・Ableton Live・Logic Proなど、その方に合ったDAWをご紹介することができます。
三大要素を学ぶ際は、理論と実践を常に並走させていきます。教材でカリキュラムを学ぶと同時に、好きな楽曲の分析やオリジナル楽曲の制作を並行して行うことで、知識がすぐに音楽として結びつく体験ができます。「まず全部覚えてから作る」ではなく、「作りながら必要なことを学ぶ」という順番です。
音の配置
音楽制作における編集の要素です。どのタイミングでどの音を配置するかによって、楽曲の流れやインパクトが決まります。ソフトのタイムラインを使いながら、効果的な音の配置方法やアレンジのコツを学びます。前述の「音楽の三大要素」もこの「音の配置」に分類されるイメージです。
- 第5講 音の直接編集 — オーディオクリップの切り貼り・加工の基礎操作
- サンプラーの使い方 — サンプル音源をピアノロールで演奏・加工する方法
- Pitchについて — ピッチ(音程)の概念と、DAW上での操作・表現方法
- オートメーション — フィルターや音量などのパラメータを時間軸で動かす方法
- イントロの作り方 — 聴き手を自然に曲の世界へ引き込むイントロの5ステップ設計
- Build UP(盛り上がりの作り方) — フィルター・リバーブ・ピッチ上昇など、ドロップ前の期待感を演出する8つの方法
- 曲の展開にメリハリをつける — エネルギーカーブを設計して「起承転結」のある楽曲に仕上げる
- 余白の活用 — 無音・沈黙を意図的に使い、ドロップのインパクトを最大化する引き算の発想
- BreakBeats in Ableton — ループ素材を使ったリズムパターンの組み方
- フィールドレコーディング — 日常の環境音を録音し、音楽制作の素材として活用する視点
サウンドデザイン
サウンドデザインは、音色選びをはじめ、音そのものの質感や特徴を作り込む作業です。シンセサイザー・サンプラー・エフェクトを活用し、自分のイメージに合った独自の音を作成します。
- 音色の種類・分類 — サンプラー型・シンセ型・プリセットの全体像と、音色カテゴリー名(Lead/Pad/Bass/Pluck等)の解説
- サウンドテクスチャ — 音のざらつき・滑らかさ・質感を意識した音作りの視点
- ADSR — Attack・Decay・Sustain・Releaseの4パラメータで音の立ち上がりと消え方をコントロールする基礎
- Vitalの使い方 — 無料シンセVitalの操作方法と、音作りの入り口
- FM合成の話 — FM音源の仕組みと、金属的・ベル系の音色を作る考え方
- Distortionの使い方 — ディストーションの基本的な使い方と、かけることで音がどう変化するか
- リバーブの使い方 — 空間系エフェクトの基礎と、楽曲に奥行きを与える使い方
- 空間系まとめ(Pan・StereoWidth・Reverb) — 音を立体的に配置するための空間系エフェクト全体像の整理
- 表現豊かな音作りのコツ — ビブラート・ピッチベンド・モジュレーション等の表現テクニック
ミックス・マスタリング
ミックスでは、各音のバランスや空間的な配置を整え、楽曲全体の仕上がりを向上させます。その後のマスタリングでは、最終的な音量や音質を調整し、曲をリリース可能な状態に仕上げます。具体的なソフトウェア操作を交えながら進めていきます。
- 音量(dB)の正体 — デシベルの概念と、音量を正しく理解・管理するための基礎知識
- ミキシング実践 — ミックスの進め方をステップバイステップで体験する
- うるせー音を作る — ハードな音楽ジャンルに対応した、攻撃的でパワフルな音作りの実践
- SoundGymで鍛える聴能形成 — 無料の聴能トレーニングサービスを使って耳のEQ感覚を養う
- アナライザーの使い方 — アナライザーを使って音の周波数成分を視覚的に確認する(Minimeterを使います)
- サイドチェイン ダッキング — キックに合わせてベース・シンセを自動的に音量を下げ、リズムにノリを生む技術
- 音のバケツリレー — エフェクトを直列でつなぐチェーンの考え方と順番の重要性
- 音の空間・余白の作り方 — 音場を設計し、密度と余白のバランスで立体感を作る
- マスタリング — 最終的な音量・音質調整のプロセスと、シンプルなマスタリングの進め方
実践
三大要素の学習と並走して、実際の音楽を素材に手を動かす時間を設けます。「知識を入れてから使う」ではなく、「使いながら知識が定着する」流れを作るための柱です。
- 楽曲分析 — 好きな曲をBPM・Key・展開・楽器構成の順で段階的に解剖する。「この曲はなぜこう聴こえるのか」を自分の言葉で説明できるようになることがゴール。生成AIを活用した最新の音楽分析手法も紹介します。
- 耳コピ・リバースエンジニアリング — 好きな曲や音を耳で聴いて再現することで、理論では補えない感覚を養う。完全再現を目指すのではなく、「なぜこうなっているか」を解剖するアプローチを重視
- オリジナル楽曲制作 — 習ったことを使って、自分の好きなジャンルやテーマで曲を作る。完成度より「とにかく形にする」サイクルを回すことが最優先
- フィールドレコーディングでの音楽制作 — 日常の環境音・街の音・自分の声などを録音し、音楽素材として使う体験
- BreakBeats制作 — 既存のループ素材を切り貼り・加工してオリジナルのリズムを作る。理論なしでリズムの感覚を体で覚える入り口
コンピュータ音楽探求編
基礎編(リズム・メロディー・ハーモニー・サウンドデザイン・ミックス)をひと通り習得したら、コンピュータ音楽探求編に移行します。
ここからは「教わる」フェーズではなく、あなたの興味を起点に、音楽制作の世界を一緒に探索していく授業になります。やりたいジャンルや深めたいスキルに応じて、レッスン内容を柔軟にカスタマイズ。あなただけの学びのルートを一緒に作っていきます。
💡 基本の考え方は押さえたので、ここからは音楽制作の世界を一緒に探索する授業をやっていこう!
コンピュータ音楽探求編の流れ(例)
自分の音を探す
基礎編を終えたら、まずはやりたいジャンルや気になる音を広く試す段階です。好きなアーティストの楽曲を分析したり、さまざまなジャンルの特徴を比較したりしながら、自分が追求したい方向性を見つけていきます。
- 気になるジャンルのルーツや特徴を調べ、整理する
- リファレンス楽曲をケーススタディとして分析する
- 特定の音色やテクニックをテーマに、ジャンルを横断して探索する
ひとつの要素を深掘りする
興味のある方向が見えてきたら、ひとつの音やテクニックを集中的に掘り下げるフェーズに入ります。プリセットの解剖やフルスクラッチでの再現など、段階的に深い理解を目指します。
① 要素分解 — 音を構成するパーツをひとつずつ観察する
② プリセット改変 — 既存の音色をベースに値を変え、変化を体感する
③ フルスクラッチ模写 — ゼロから再現して、構築の感覚を身につける
楽曲制作とフィードバック
単体の音作りから、楽曲全体の完成度を高める段階へ進みます。オリジナル楽曲を制作し、講師からフィードバックを受けながら総合的な力を磨いていきます。
- オリジナル楽曲を制作し、サウンドデザイン・ミックス・展開構成などのフィードバックを受ける
- 制作の中で必要になった音楽理論やテクニックを自然に学んでいく
- 講師との共同制作を通じて、他者の音の意図と自分の音を接続する体験をする
要望あれば、講師と生徒がプロジェクトファイルを投げ合いながら楽曲を仕上げていくこともできます。講師が手を加えた箇所はその場で解説するため、フィードバックと学びが同時に起きます。うまく接続できたとき——DJが曲をうまく繋げたときのような——独特の達成感があります。
必要なときに、必要な教材を
探求編では、授業の流れの中で「この瞬間に必要」と感じた知識をその場で教材にすることがあります。教科書通りではなく、あなたの制作物から生まれた疑問が、そのまま次のレッスンの題材になります。
- 合作リミックスで「なぜこの音が奥まって聴こえるのか」という疑問が出たとき → その場で「音のぼかしと馴染ませ」という教材を制作し、サウンド設計の考え方を一緒に整理
- 好きなアーティストのキックを再現したいという話になったとき → 英語のチュートリアル動画を日本語化した「ザーグキック制作ガイド」をその週のうちに作成して共有
- ディストーションプラグインの使い方を掘り下げたいときに → 「Fruity Fast Distの攻略」「Misstortionの攻略」などプラグイン単体の教材が生まれることも
あなたの「好き」が授業になる
探求編では、決まったカリキュラムに沿うのではなく、あなた自身の興味や問いを起点にレッスンが展開します。好きなアーティストの音作りを解剖したり、特定のジャンルを深く研究したり、楽曲を仕上げてリリースを目指したり。進み方は一人ひとり異なります。
3つの柱で星座を描く — コンピュータ音楽のアレンジ統合論
💡 ここからは、すでにある程度自分で制作ができるようになったけど 「なぜかプロの曲のように仕上がらない」「たくさん知識はあるのに音楽としてまとまってくれない」 という方のための、コンピュータ音楽特有の「広い意味でのアレンジ」の話です。
これまでのカリキュラムでは「音の配置」「サウンドデザイン」「ミックス・マスタリング」という3つの要素を、それぞれ別の地図として学んできました。それぞれの世界に星(知識の点)が増えていったはずです。
ここからの話は、増えた星同士をどう繋いで星座を描くか——です。実はこの3つの要素は同じ原理で動いていて、その原理を3つの柱として整理できます。
なぜ「コンピュータ音楽特有」のアレンジ論が必要なのか
生演奏やアナログレコーディングでは、音には自然に「ゆらぎ」「粗さ」「位相のばらつき」が含まれています。指の力加減、息づかい、楽器の鳴り方、テープの飽和——こうした細かい不均一さが、音同士を勝手に馴染ませてくれます。
一方、コンピュータ音楽で生まれる音は、シンセの数式・サンプルの正確な再生・プラグインの演算から作られます。全部が「くっきり・整合した」状態からスタートするんです。
くっきり・前に出る インコヒーレント ▶
ぼやけ・空間に溶ける
放っておくと、デジタルで作った音は全員がスペクトルの左側に密集します。みんなが「くっきり前に出る」状態で、全員が主役を主張する——これが「知識はあるのに音楽としてまとまらない」現象の正体です。
つまりコンピュータ音楽では、意図的に音を「ぼかす」「奥に配置する」「対比を作る」という設計が必要になります。これが、生演奏のミックスとは根本的に異なる、コンピュータ音楽特有の「広い意味でのアレンジ」です。
柱① Coherency — 音のまとまり度
あらゆる音は「くっきり ↔ 溶ける」のスペクトル上のどこかに位置しています。世の中にあるエフェクトの大半(リバーブ・ディレイ・コーラス・ユニゾン・グラニュラー処理など)は、このスペクトル上で音を右に動かす操作として理解できます。
| 操作 | 何が起きているか | ぼかしの強さ |
|---|---|---|
| リバーブ | 時間軸で位相がずれた残響が加わる | 中〜強 |
| ディレイ | 原音と時間差のコピーが混ざる | 中 |
| コーラス/フランジャー | ピッチ・時間を微妙にずらしたコピーを重ねる | 中〜強 |
| ユニゾン/デチューン | わずかにずれた複数オシレーターを重ねる | 中〜強 |
| ステレオワイドナー | 左右の位相をずらして広げる | 中 |
| グラニュラー | 音を細切れにしてランダムに並べ直す | 強 |
| 歪み/サチュレーション | 倍音を足してノイズ成分を増やす | 弱〜中 |
「リバーブをかけすぎてぼやけた」というのは、Coherencyを下げすぎた結果。逆に「全部の音が前に出すぎてまとまらない」のは、Coherencyを下げる操作が足りない結果です。
柱② Transient — 音の立ち上がり
音の出だし——アタック——の鋭さが、ミックス上の前後関係を決めます。
これは言葉の発音と同じ構造をしています。子音([k][t][s])はトランジェント、母音([a][i][u])はサステイン。
子音があるから言葉が聴き取れる。ミックスでも同じで、トランジェントがある音は「何かがいる」と脳が認識して前に出るのです。
ADSRのAttackパラメータ、コンプのアタックタイム、トランジェントシェイパー——すべて柱②を操作する手段です。「シンセのパッドが空間に漂って聴こえる」のは、アタックがなく母音だけの音だから。
柱③ Contrast — 対比
音楽が「複雑に聴こえる」のは、実は要素の詰め込みではなく、アレンジで作られる対比によるところが大きいです。
「すごいサウンドだ」と感じる瞬間は、フィル・トランジション・コードチェンジなどのごく一部の場面だけ。それ以外の時間と対比があるから際立つ——これが柱③の核心です。
Contrastはあらゆる軸で作れます:
| 軸 | ハイライト側 | 背景側 |
|---|---|---|
| Coherency | くっきりした音 | ぼかされたテクスチャ |
| Transient | アタック強・前に出る | アタック弱・漂う |
| 音量 | 大きい瞬間 | 抑えた時間 |
| 密度 | 音が密集 | 音数を絞る |
| 空間 | ドライ・近い | ウェット・遠い |
| 音域 | メロディ・ボーカル | サブベース・ドローン |
| ステレオ幅 | 広いシンセ | センターのキック・ベース |
| フィルター | 開いた音 | 閉じた音 |
複数の軸を同時に動かすと効果は倍増します。ビルドアップからドロップへの突入は、Coherency・Transient・音量・密度・空間・フィルターが一斉に「背景 → ハイライト」へ切り替わるから気持ちいい。
1軸だけ動かすより、複数軸を揃えて動かすほうが落差が大きくなります。
そして、ここが重要なのですが——コントラストは「ハイライトをもっと派手にする」より「背景をもっと地味にする」ほうが効きやすい。
なぜなら、デジタルで生まれる音はすでに全員コヒーレント側に密集しているからです。ハイライトをこれ以上くっきりさせても天井がある。一方、背景をぼかして右に動かせば、左側のハイライトとの距離は無限に広げられます。
これ以上くっきりできない。差がつかない。
★との距離が広がる。これがコントラスト。
引き算の判断こそが、コンピュータ音楽で最も難しく、最も効く操作。
3要素と3柱の対応
カリキュラムで学んだ3要素は、3柱を通すと一つの星座として見えてきます。
| カリキュラムの3要素 | 3柱の使い方 |
|---|---|
| 音の配置 | Contrastを時間軸で設計する(イントロ→ビルドアップ→ドロップという流れ自体が、3柱の値を時間で動かす作業) |
| サウンドデザイン | 音を作る時点でCoherencyとTransientを選ぶ(プリセット選びすら3柱の判断) |
| ミックス・マスタリング | 3柱の最終微調整(アレンジ段階で解決できなかった残りを整える場所) |
つまり「ミックスはアレンジが終わってからやるもの」という分け方は、コンピュータ音楽では幻想です。3要素は同じ3柱を、別のタイミングで動かしているだけ。
この理論が変えること
3柱で考えられるようになると、これまで漠然と感じていた問題が診断可能な現象になります。
- 「リバーブをかけすぎてぼやけた」 → Coherencyの過剰として理解できる
- 「弦楽器の打ち込みが平坦」 → Transient設計の単調さとして見える
- 「曲の展開がのっぺりする」 → Contrast設計の不足として診断できる
- 「音数を増やしたのに迫力が出ない」 → 背景を引き算していない、つまりContrastの天井にぶつかっている
そして何より——ミックス段階で必死に修正することが減ります。なぜなら、音を選ぶ段階・配置する段階で、すでに3柱を意識して設計できるようになるから。
🎯 ゴールは、「あとから直す」のではなく「最初から繋がって聴こえる」音楽を作れるようになること。
実際の授業では、生徒さん自身の制作物を題材にしながら、この3柱を使って「なぜこの音は奥に行くのか」「なぜここがピークに聴こえるのか」を一緒に解剖していきます。
Emergent Sound Theory
坂本龍一は、「オリジナリティは5%も出せたら十分」と語りました。これは、完全な独創性よりも、過去の音楽や影響を受けたサウンドを吸収しながら、自分なりのエッセンスを加えることが重要であるという考え方です。音楽はまったくのゼロから生まれるのではなく、過去の蓄積の上に構築されるもの。
この視点を元に、本理論を定義しました。これは、憧れの音楽と自分の個性が交差しながら新しい音が生まれるという創作のプロセスを整理するためのフレームワークです。(※あくまで独自の考察に基づくものであり、一般的な理論ではありません)
二つの創作アプローチ
探索・生成型
(Exploration & Generation)
「音をいじって試しながら楽しむ」タイプの創作方法です。日々の生活と密接に結びついており、日記やメモ、音と遊ぶ経験そのものが含まれます。無数の試行回数が行われることで、地に足の着いた思考がなされていきます。
- DAWで適当に音をならしてみる
- ふっと浮かんだメロディーを録音する
- 何も考えずビートを上書きしてみる
- フィールドレコーディング(街の雑踏などを録音)
- アルゴリズムやランダムなツールを使って偶発的な音を発見する
分析・構築型
(Analysis & Construction)
「存在する音楽を分析し、どのように作られているかを理解して構築する」方法です。大好きな音楽が頂点に君臨しており、それを観察することは、まるで天体の星を眺めて軌道を計算する感覚に近いものがあります。
- リファレンスの曲を分析する
- 音楽理論を学ぶ
- ミックスやマスタリングのテクニックを研究する
- あるジャンルの特徴を調べ、再現してみる
- 歴史的な音楽スタイルを分析し、現代に応用する
創発する音楽のプロセス
大切なのは、どちらか一方に偏らないこと。探索・生成型で自由に音を生み出し、分析・構築型でそれを整理・言語化する。
その往復の中から、自分一人では辿り着けなかったアイデアが生まれてきます。
この循環を繰り返すことで、憧れの音楽と自分の個性が少しずつ融合し、独自の音楽として結晶化していく——それがこの理論の核心です。スランプとは、どちらかのアプローチに偏りすぎている状態のサインでもあります。
自分自身の探求 — あなたの音はあなたから来る
💡 ここからは、3柱とESTで「どう作るか」「なぜ作るか」が見えてきたあなたへ。次に来る壁——「で、自分は何を作りたいんだっけ?」——を一緒に越えていく話です。
技術はある、知識もある、ミックスもできる。それでも手が止まる瞬間が来ます。
- 好きな音はあるけど、なぜ好きかは言語化できない
- 自分の手癖と他人の真似の区別がつかない
- いつの間にか、誰かのスタイルの再現で止まってしまう
これは技術の問題ではありません。素材の問題です。そして、その素材は自分の中にあります。
ESTの「個性側」を発掘する
さきほどのEmergent Sound Theoryでは、こう書きました。
この循環を繰り返すことで、憧れの音楽と自分の個性が少しずつ融合し、独自の音楽として結晶化していく
EST が示したのは、「憧れの音楽」と「自分の個性」が循環することで独自の音が生まれる、という仕組みでした。ここでは、その個性側を具体的に掘り下げます。
憧れ側は外側にあります——聴いてきた音楽、憧れのアーティスト、参照したいリファレンス。これは分析・構築型アプローチで取り込めます。さきほどのアレンジ統合論もまさに、これです。
一方、個性側は内側にあります——あなたの手癖、身体、記憶、原風景、痛み、喜び。他の誰も持っていない、あなただけの素材です。ESTで言う「探索・生成型」が拾うのは、まさにこの素材です。
AI時代において、95%の「憧れ側」はAIが大きくサポートしてくれます。でも、5%の「個性側」はAIには永遠に手に入らない。だからこそ、自分の生活を発掘して制作素材として使えるようになることが、コンピュータ音楽家の決定的な差になります。
つまり自己理解は、贅沢な内省ではなく制作の必須工程と考えます。
自分を言葉にする時間を持つ
「なんか好き」「なんとなくこれがいい」のままでは、制作の核にはなりません。でも一人で言語化するのは、思っているよりずっと難しい。だから、誰かと話しながらゆっくり言葉にしていく時間が役に立ちます。
子供の頃に何を聴いた?どんな環境で育った?何に惹かれてきた?——そんな自分史を遡りながら、「なんか好き」に音楽語彙を当てていきます。
自分史探求が音楽の素材になる
自分史を掘ると、制作素材として使える「あなただけのもの」が浮かび上がってきます。
具体例:
- 子供の頃に好きだった音がそのまま音色選好に直結している
- 言葉にできなかった苛立ちがリズムの粗さとして出る
- 夜の海の記憶が空間設計(リバーブの選び方)に出る
- 家族との関係が和声の好みに出る
- 特定の季節の匂いがテクスチャの選択に出る
これらは「思いつき」ではなく、あなたの身体に蓄積された素材データベースです。自分史探求は、このデータベースに名前をつけて取り出せるようにする作業。
実践の場
実践としては、主に2つあります。
チェックイン
レッスン開始すぐに、お互いの近況を軽く話すチェックインの時間を設けています。最近のできごと、ちょっとしたひっかかり——なんでも構いません。話すことで、その人なりの自己理解の場になればと思っています。
やましょー研究室
僕のサービスを受けている方や友達であれば、やましょー研究室というオンラインの研究室にも無料で参加できます。それぞれの人が探求しているテーマを自由に話せる場所なので、今取り組んでいる音楽探求についてもぜひ話してみてください!
制作と自己理解は循環する
制作物は鏡です。自分が何を選んだかが音に出ます。
作る → 聴き返す → 気づく → また作る
↑ ──── 循環 ──── ↓
完成した曲を後から聴くと、自分の偏りが見えてきます。「自分はこういう音が好きなんだ」「こういう構造に手が伸びるんだ」と発見する。次の制作では、それを意図的に動かせるようになる。
この循環を繰り返すことで、最初は無自覚だった「あなたの音」が、徐々に自分でも認識できる輪郭を持ち始めます。
教室の最終目的
このカリキュラムの最終目的は、技術習得だけではありません。
🎯 「自分の音を出せる状態」になること。
そして、そこに至る道は一人ひとり異なります。あなたの自分史と制作物が、そのままレッスンの題材になります。
学ぶべき最後の対象は、自分自身です。
AI時代において、あなたが他の誰でもないあなたであることが、最大の創造資源になります。